今日は4月の始まりの日にぴったりのいいお天気で、絶好のピクニック日和。
それに春休みだから朝からずっと祐一先輩といられるし、さっき食べたお弁当のおいなりさんもおかずも我ながら成功したと思えるし。
私は鼻歌を歌いたくなるような気分でレジャーシートの上に座り、お日さまにあたりながら草の香りを楽しんでいた。
祐一先輩はすぐ近くで、やっぱり気持ちよさそうにうとうとしている。
ああ、春だな、4月がきて嬉しいな、なんて思ったところで、私はもうひとつ今日やりたかったことを思い出した。
えっと、静かに準備して。
先輩、きっと本当には寝ていないよね?
「あの、祐一先輩、実は私、新しい術を身につけたんです」
先輩は目を開けてこちらを見た。
「今試してみますから見てもらえますか?」
「ああ」
上手く出来ますように。
手のひらを一度先輩に見せて、こっそり仕込んで。
そして口の中で適当に何か唱えて。・・・・・えいっ!
「ほう、すごいな」
祐一先輩が感心したような声をあげてくれる。
私の手のひらには、無事、小さなキャンディが2つ乗っていた。
やった、成功!
4月1日に会えることになってから、エイプリルフールでなにかやってみたいなって思っていた。
私が思いついたのが、この前覚えた手品を新しい術ですって話すうそ。
祐一先輩ならすぐわかるだろうし、ちょっとは笑ってくれるよね?
実はエイプリルフールでした、と口を開きかけたそのとき、
「次はいなりずしを出してくれないか?」
え?
「新しい術、見事だった。よく修行したな。俺としては、次はぜひいなりずしを出してほしい」
ええ~っ!もしかして先輩、信じちゃったの!?
どうしよう、そんな、おいなりさんなんて出せないもの。
「ああ、先程たくさん美味いいなりずしを食べさせてもらったからな。一つでいい」
さらに追い討ちをかけるように真面目な顔で言われてしまって。
あたふたとしている私を見て、先輩はやがて、ふ、と笑い出した。ほころぶように広がる笑顔。金の瞳がきらめいている。
「もう~、祐一先輩ったら!やっぱりわかっていたんですね」
「すまない。珠紀の反応が可愛らしかったから、つい乗ってしまった」
先輩の顔を見て、私も思わず笑ってしまった。
ちょっと焦ったけれども、先輩が楽しそうに笑ってくれたから、まあいいかな。
「実は、俺も新しい術を身につけた。見てくれるか?」
ひとしきり笑った後で先輩がそう言い出した。
なんだろう、やっぱりエイプリルフールかな、それとも本当なのかな。
お願いします、と私が言うと、先輩は立ち上がり背筋を伸ばした。
手を差し伸べられたので、私も立ち上がりちょっと緊張する。
先輩の表情からは何も読めないけれど、これは本当なのかも。
先輩が一歩私に近付いた。
と思ったら、先輩の顔がもっと近付いてきて、私の唇に何か温かいものが一瞬触れて。
呆然としてしまった私を、先輩はやわらかな笑顔で満足そうに見ている。
今のって、あの!
「珠紀を驚かす新しい術だ」
やっと我に返った私は頬が熱くなってしまった。
「せ、先輩、今のどのあたりが術なんですか!?」
「今日は4月1日だからな。
新しい、ということと、術、ということ、2つ嘘をついたから俺の勝ちだ」
そもそも勝ち負けなんてあるんですか、と言おうとした私を、先輩は引き寄せて抱きしめて。
褒美をもらうぞ、という囁きと共に、もう一度、今度はしっかりとした口付けが私の唇に降りてきた。
(終)
それに春休みだから朝からずっと祐一先輩といられるし、さっき食べたお弁当のおいなりさんもおかずも我ながら成功したと思えるし。
私は鼻歌を歌いたくなるような気分でレジャーシートの上に座り、お日さまにあたりながら草の香りを楽しんでいた。
祐一先輩はすぐ近くで、やっぱり気持ちよさそうにうとうとしている。
ああ、春だな、4月がきて嬉しいな、なんて思ったところで、私はもうひとつ今日やりたかったことを思い出した。
えっと、静かに準備して。
先輩、きっと本当には寝ていないよね?
「あの、祐一先輩、実は私、新しい術を身につけたんです」
先輩は目を開けてこちらを見た。
「今試してみますから見てもらえますか?」
「ああ」
上手く出来ますように。
手のひらを一度先輩に見せて、こっそり仕込んで。
そして口の中で適当に何か唱えて。・・・・・えいっ!
「ほう、すごいな」
祐一先輩が感心したような声をあげてくれる。
私の手のひらには、無事、小さなキャンディが2つ乗っていた。
やった、成功!
4月1日に会えることになってから、エイプリルフールでなにかやってみたいなって思っていた。
私が思いついたのが、この前覚えた手品を新しい術ですって話すうそ。
祐一先輩ならすぐわかるだろうし、ちょっとは笑ってくれるよね?
実はエイプリルフールでした、と口を開きかけたそのとき、
「次はいなりずしを出してくれないか?」
え?
「新しい術、見事だった。よく修行したな。俺としては、次はぜひいなりずしを出してほしい」
ええ~っ!もしかして先輩、信じちゃったの!?
どうしよう、そんな、おいなりさんなんて出せないもの。
「ああ、先程たくさん美味いいなりずしを食べさせてもらったからな。一つでいい」
さらに追い討ちをかけるように真面目な顔で言われてしまって。
あたふたとしている私を見て、先輩はやがて、ふ、と笑い出した。ほころぶように広がる笑顔。金の瞳がきらめいている。
「もう~、祐一先輩ったら!やっぱりわかっていたんですね」
「すまない。珠紀の反応が可愛らしかったから、つい乗ってしまった」
先輩の顔を見て、私も思わず笑ってしまった。
ちょっと焦ったけれども、先輩が楽しそうに笑ってくれたから、まあいいかな。
「実は、俺も新しい術を身につけた。見てくれるか?」
ひとしきり笑った後で先輩がそう言い出した。
なんだろう、やっぱりエイプリルフールかな、それとも本当なのかな。
お願いします、と私が言うと、先輩は立ち上がり背筋を伸ばした。
手を差し伸べられたので、私も立ち上がりちょっと緊張する。
先輩の表情からは何も読めないけれど、これは本当なのかも。
先輩が一歩私に近付いた。
と思ったら、先輩の顔がもっと近付いてきて、私の唇に何か温かいものが一瞬触れて。
呆然としてしまった私を、先輩はやわらかな笑顔で満足そうに見ている。
今のって、あの!
「珠紀を驚かす新しい術だ」
やっと我に返った私は頬が熱くなってしまった。
「せ、先輩、今のどのあたりが術なんですか!?」
「今日は4月1日だからな。
新しい、ということと、術、ということ、2つ嘘をついたから俺の勝ちだ」
そもそも勝ち負けなんてあるんですか、と言おうとした私を、先輩は引き寄せて抱きしめて。
褒美をもらうぞ、という囁きと共に、もう一度、今度はしっかりとした口付けが私の唇に降りてきた。
(終)
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