私の11月の誕生日に、素敵なSS頂きました
ツイッターで仲良くしてれている『アオバラメサイア』管理人の天音さんこと、ハムしゃんからの頂きものです
私の注文した『女の子が和気あいあいしてるSS』と言ったら、想像以上に素敵なSSをくれました
やっぱり、可愛いし微笑ましい!!としか言えないSSです。
うん、私にとって破壊力抜群です
私だけで、読むのが勿体ないので、許可をもらって載せちゃいました♪
きっと皆さん、楽しんで頂けると思います
※天音さんの許可を頂いて、私が一部挿絵を描いてSS載せていただいてます。
それでは、前置きはこのぐらいにして『つづき』から、素敵な素敵なSSをお楽しみくださいm(_ _)m
ツイッターで仲良くしてれている『アオバラメサイア』管理人の天音さんこと、ハムしゃんからの頂きものです
私の注文した『女の子が和気あいあいしてるSS』と言ったら、想像以上に素敵なSSをくれました
やっぱり、可愛いし微笑ましい!!としか言えないSSです。
うん、私にとって破壊力抜群です
私だけで、読むのが勿体ないので、許可をもらって載せちゃいました♪
きっと皆さん、楽しんで頂けると思います
※天音さんの許可を頂いて、私が一部挿絵を描いてSS載せていただいてます。
それでは、前置きはこのぐらいにして『つづき』から、素敵な素敵なSSをお楽しみくださいm(_ _)m
『硝子細工、心模様』
森に轟く太鼓の音、風韻滲む笛の楽。
秋風香る夜の空気に、人々賑わうこの季節が今年もまたやってきた。
「わぁ……! 今年はまた一段と賑やかだなぁ」
きょろきょろと辺りを見回しながら、呟いた珠紀は夜店の並ぶ境内への石畳を歩く。からころと鳴る下駄の音に、結い上げた髪へ挿す簪がシャラシャラと色を添えた。
普段とは趣の違う神社の光景に、少女は一人、感嘆の息をついた。
常にはしんと静まり返る神社の鳥居は、明々とライトアップされ、訪れる村民達を迎え入れている。紅葉舞う木々に包まれるように開かれた、季封村の秋祭りだ。
「綿菓子とりんご飴は絶対食べなくちゃね。後はたこ焼きと焼きそばと……」
祭囃子の響く中、早くも食べ歩きの算段を始めた珠紀は、送り出してくれた美鶴に感謝した。
――遡るのは、ほんの三十分ほど前のこと。まだまだ玉依姫の修行中の身である珠紀が、様々な仕来りについて勉強していた時だ。
暮れかけの日が差す少女の部屋に、鈴を転がすような声が聞こえた。
『珠紀様』
襖の向こうから掛けられた声に、振り返った珠紀は本を読む手を止めた。
『美鶴ちゃん? どうしたの?』
暗に入って、という響きを含ませて投げかけた声へ、応えるように襖が開かれる。ちょこんと廊下に鎮座まするのは、彼女の世話役でありこの宇賀谷家へ仕える分家の少女、言蔵美鶴だった。
夕食には少し早い頃合ではなかろうか。不思議そうに首を傾げた珠紀を待っていたのは、予想だにしない言葉だった。
『本日は秋祭りですので……よろしければ、息抜きに行ってみてはいかがですか?』
勉強漬けの日々で忘れていた、今日という日の催し事。そう言えば、と、毎年この時期には村を上げての秋祭りが開催されていたことを思い出す。
いいの? と問い返せば、たまの息抜きは必要でしょう? と問いで返されて、珠紀は是と首を縦に振ったのだった。
どうせ祭りに行くのなら、と、着物を下ろしてきてくれた美鶴に感謝する。去年着たものとは異なる、淡い黄色に大輪の花の柄が刺繍された着物だ。着付けまでしてくれた当の美鶴は、境内掃除のため一緒に回ることは出来なかったけれど、その分『お土産を期待しています』と悪戯っぽく笑って送り出してくれた。
折角ならば美鶴と共に、守護者の皆も誘って祭りを回りたかったものだが、他の守護者一同も境内の見回りで手が空いていなかったらしい。
故に珠紀は一人、並ぶ露店を見て回っていたのだった。
少々寂しくも感じられたが、年に一度の季節の催し。楽しまなければ勿体ない。さて何から買おうかと露店を覗き歩いていた珠紀の視界に、ふと一軒の屋台が飛び込んできた。
「あ……可愛い」
それは様々な小物の陳列する、雑貨露店だ。白い布の敷かれた露台には、普段のこの村に縁遠い色とりどりのアクセサリーや小間物が並んでいる。吸い寄せられるように雑貨露店へ近付いた珠紀は、彩り美しい細工物に目を奪われた。
和紙で仕立てられた小物入れから、焼き物の小さな人形、吊るし飾り。様々な和物の雑貨の並ぶ一角に、一際目を引く物がちょこんと置かれていた。
紫色の美女桜をあしらった、硝子細工の一本の簪だ。
力を折れれば簡単に折れてしまいそうなのに、その愛らしさは手に取らずに居られない。思わず手を伸ばした珠紀の脳裏に、ある考えが閃いた。
「おじさん、これ……」
露店の品とは似つかわしくない、厳つい店主の男へ、少女が声を掛けた時だ。
「あら、春日さん。あなたも来ていたのね」
背後から掛かった声に、珠紀はゆるりとそちらを振り返った。見れば、青い着物に袖を通した、フィーア――正確には、緩やかに流れる金髪を持つ美人教師であるフィオナの方だが――とアリアの姿がある。フィーアは濃い青、アリアは薄い青で、似たような柄が刺繍されていた。二人並ぶと、まるで親子のようだ。
「シビルは一人なのか?」
人形焼の袋を手にしたアリアが、ことりと小首を傾げて問いかける。
「うん。みんな忙しいみたいで。アリアとフィーアは、二人でお祭り見物?」
「ええ。去年は裏方の仕事をしてたでしょう? アリア様も満足に見て回れなかったでしょうから、今年は二人で回ってみようと思って」
珠紀が尋ねたことには、アリアの代わりにフィーアが答えた。ここに姿のない三人の男達のことが一瞬脳裏を掠めたけれど、去年の焼きそば屋台を思えば何となく想像がついて、少女はそっと視線を明後日の方向へと飛ばす。
それから、どうせ一人なのだし、一緒に見て回らないかと口を開きかけた所で、今度はフィーアが首を傾げた。
「あら? その着物……言蔵さんにもらったのね」
彼女が何気なく呟いた言葉に、珠紀はえ、と目を瞬かせて首を傾げた。
「どうしてフィーアが知ってるの?」
「だってその着物、言蔵さんがあなたの為に、って手ずから縫っていたものでしょう? 私がアリア様に着物を縫って差し上げたい、と和裁の指南を頼んだ時に、傍らで縫って――って……」
さらさらと語るフィーアの艶やかな笑顔が、ぽかんと口を小さく開いたまま聞き入る珠紀の様子で、訝しげなものへと変わる。まさか、と彼女が言葉を継いだ。
「もしかして……聞いて、いないの?」
恐る恐る尋ねたフィーアの言葉には、珠紀はただ無言で首を縦に振るしかなかった。
彼女の反応を見たフィーアは「しまった」と言うような顔をして、その状況を見守っていたアリアが哀れみを込めた視線をフィーアへ寄越す。
まさか美鶴が整えてくれた着物だとは思わなかった珠紀だ。丸々と目を開いて驚く最中も、嬉しい気持ちと申し訳ない気持ちがぐるぐると渦巻いていた。
――だって彼女は、何も言ってくれなかったのだ。
笑顔で送り出して、まるで苦労などしていませんよという風体で。
『私はお掃除がありますから。どうぞ珠紀様だけでも、楽しんでいらしてくださいね』
そう、告げた彼女の口ぶりからは、わざわざ着物を仕立ててまで送り出してくれた彼女の苦労など、一寸も感じ取ることができなかった。
だから珠紀は、代わりに楽しんでくるねと笑顔で返すばかりで――。
(ありがとう、なんて……一言も言えてない……!)
思い至れば、まごつくばかりの心が逸ったようにフィーアとアリアの顔を見回した。表情には「どうしよう」と言わんばかりの迷いが滲み出し、気付けなかった己の無神経さに、知らず握る拳へ力が籠もる。
……と。
「あ……、……」
掌の中で、硬質な感触がして我に返った。視線をやれば、己の手には先ほど手に取った硝子の簪がある。未だに手にしたままの簪は、握り締めていたせいですっかり掌の温もりを共有していた。
「どうやら、何か大切なものを忘れてしまったみたいね」
「フィーア……?」
「そういう顔をしているわ」
掌から顔を上げれば、フィーアとアリアが揃って珠紀を見つめている。
「伝えるべき言葉は、伝えられる内に伝えておく方がいいぞ」
伝えられなくなってからでは、すべてが手遅れなのだからな。優しく、強く、凛と響く自分よりも幾分幼い少女の言葉は、彼女が経験したことであるからか、より一層の真実味を持って珠紀の心に響いた。
「お祭りよりも、大事なものを思い出したのでしょう?」
続いてフィーアが告げた言葉に、珠紀は考えるよりも前に頷いていた。
それからすぐそばの屋台を振り返ると、厳つい店主に簪を突き付けながらよく通る声で言った。
「おじさん、これください!」
店主の男が返事をするよりも前に、着物と揃いの柄の巾着から簪分の代金を出して露台に置く。有無を言わさぬ彼女の言葉には、力強い意志が宿っていた。
まるで二人の言葉に背中を押されたように、簪を抱えた珠紀はアリアとフィーアを振り返って微笑む。ふわりと綻ばせたその表情は、簪を彩る美女桜のように愛らしく、凛と冴えていて。
「ありがとう、二人とも」
一言だけ礼を告げると、踵を返して一目散に駆け出した。かんかんかん、と下駄が石畳を打つ音が力強く響き渡る。寒風を受けながら境内を目指して走る珠紀の後れ毛が、向かい風に煽られた。
きっとまだ、そこに居る。居ないのならば探し出せばいい。今、どうしても彼女に会いたい、とひたむきな気持ちが溢れ出す。
人の間を縫って屋台の裏を通って、乱立する木々を抜けた先で、珠紀は探し人の姿を見付けた。
「……! 美鶴ちゃん!」
「……っ!? 珠紀、様? お早いお帰りですね。そんなに慌ててどうしたんですか?」
まるで突撃する勢いで、珠紀は竹箒を手に振り返る美鶴の目の前まで駆け寄る。急に止まった膝へ手をついて、全力疾走の過呼吸を繰り返した少女に、美鶴は驚きの様相を隠そうともしない。
ただ問いかけた後で、珠紀の答えを待つばかりだ。
暫く荒い息を吐き出していた珠紀は、漸く呼吸を少しだけ整えると目の前の少女を見つめてはにかむように笑った。
「あの、ね。着物のこと、フィーアから聞いた、の」
「え……?」
「私のために縫ってくれたんだよね。家事の合間に作ってくれたのかな……。大変だったでしょ? ――ありがと、ね」
この寒い中でも額にうっすらと汗の珠が浮かぶのは、ありったけの力で駆けて来たせいだろう。それでも笑みの形を崩さず伝えたかった言葉を美鶴へ告げた珠紀は、心底晴れやかな顔をしていた。
突然のことに驚いたのは、寧ろ美鶴の方だ。先ほどフィーアの話を聞いた珠紀よろしく、丸い瞳をぱちぱちと瞬かせた美鶴は、すぐに唇の端を吊り上げて控えめな笑みを浮かべた。
「いいえ。大変だなんて、これっぽっちも思いませんでした。だって、あなたへ贈るものですから」
「美鶴ちゃん?」
「大切な誰かへ贈る物を作っている間は、それだけで楽しいものです。あなたが袖を通してくれる、その時の笑顔を思えば……苦労よりも喜びの方が大きかった」
とつとつと告げられる彼女の言葉は、ふと顔を上げた珠紀の耳にどう聞こえたのだろう。まん丸と見開いた瞳で、暫し美鶴の顔を凝視していた珠紀だったが、少女は不意に表情を緩めると、くしゃりと苦笑じみた笑みを浮かべて吹き出した。
「うん、でも、嬉しかったから」
ただそれだけ。たったそれだけの言葉を伝えるために引き返して来たほどには、珠紀の心は彼女の真心に絆されていた。
私はその言葉が嬉しいですよ、と付け足す美鶴の言葉が、胸に心にじわじわと広がっていく。
幾晩もかけて縫われた着物に、自分の笑顔、これっきりを返すだけでは割に合わない気がしたけれど、彼女が嬉しいと言うのなら、珠紀にとってはそれが一番の喜びとなる。
ああ、こういう時、人はこの感情を幸せと呼ぶのだろう。
そんな思いが、ちらりと珠紀の頭の端を掠めた。
そうして互いに笑いあった後で、珠紀は思い出したように手に握ったままの簪を美鶴へ差し出す。
「あの、これ。着物のお礼にはならないだろうけど、美鶴ちゃんに買って来たんだ」
「え? これは……簪、ですか?」
「うん。……髪の短い美鶴ちゃんに簪をあげるのもどうかと思ったんだけど、これを見てたら美鶴ちゃんに似合いそうな気がして」
美鶴の手を取りながら、彼女の掌に硝子細工の簪を乗せた珠紀はそう言った後で、こそりと内緒話をするように美鶴へ小さく耳打ちをした。
「きっと来年の今頃には、もっと髪が長くなってると思うんだ。だから――」
“来年はその簪を付けて、一緒にお祭りに行ってくれる?”
悪戯を企てる子どものように、爛々と輝く瞳の珠紀が首を傾げる。問われた言葉には降参とばかりに、美鶴の肩が竦められた。
「ええ。そうですね。来年は色違いの、お揃いの着物を用意しておきます」
アリアの為に着物を仕立てたフィーアのように。珠紀の為に仕立てた着物と、それと同じ柄の布でもう一重ね着物を用意しておこう。美鶴は珠紀の提案に朗らかに頷いて、彼女からの土産を受け取ったのだった。
END
森に轟く太鼓の音、風韻滲む笛の楽。
秋風香る夜の空気に、人々賑わうこの季節が今年もまたやってきた。
「わぁ……! 今年はまた一段と賑やかだなぁ」
きょろきょろと辺りを見回しながら、呟いた珠紀は夜店の並ぶ境内への石畳を歩く。からころと鳴る下駄の音に、結い上げた髪へ挿す簪がシャラシャラと色を添えた。
普段とは趣の違う神社の光景に、少女は一人、感嘆の息をついた。
常にはしんと静まり返る神社の鳥居は、明々とライトアップされ、訪れる村民達を迎え入れている。紅葉舞う木々に包まれるように開かれた、季封村の秋祭りだ。
「綿菓子とりんご飴は絶対食べなくちゃね。後はたこ焼きと焼きそばと……」
祭囃子の響く中、早くも食べ歩きの算段を始めた珠紀は、送り出してくれた美鶴に感謝した。
――遡るのは、ほんの三十分ほど前のこと。まだまだ玉依姫の修行中の身である珠紀が、様々な仕来りについて勉強していた時だ。
暮れかけの日が差す少女の部屋に、鈴を転がすような声が聞こえた。
『珠紀様』
襖の向こうから掛けられた声に、振り返った珠紀は本を読む手を止めた。
『美鶴ちゃん? どうしたの?』
暗に入って、という響きを含ませて投げかけた声へ、応えるように襖が開かれる。ちょこんと廊下に鎮座まするのは、彼女の世話役でありこの宇賀谷家へ仕える分家の少女、言蔵美鶴だった。
夕食には少し早い頃合ではなかろうか。不思議そうに首を傾げた珠紀を待っていたのは、予想だにしない言葉だった。
『本日は秋祭りですので……よろしければ、息抜きに行ってみてはいかがですか?』
勉強漬けの日々で忘れていた、今日という日の催し事。そう言えば、と、毎年この時期には村を上げての秋祭りが開催されていたことを思い出す。
いいの? と問い返せば、たまの息抜きは必要でしょう? と問いで返されて、珠紀は是と首を縦に振ったのだった。
どうせ祭りに行くのなら、と、着物を下ろしてきてくれた美鶴に感謝する。去年着たものとは異なる、淡い黄色に大輪の花の柄が刺繍された着物だ。着付けまでしてくれた当の美鶴は、境内掃除のため一緒に回ることは出来なかったけれど、その分『お土産を期待しています』と悪戯っぽく笑って送り出してくれた。
折角ならば美鶴と共に、守護者の皆も誘って祭りを回りたかったものだが、他の守護者一同も境内の見回りで手が空いていなかったらしい。
故に珠紀は一人、並ぶ露店を見て回っていたのだった。
少々寂しくも感じられたが、年に一度の季節の催し。楽しまなければ勿体ない。さて何から買おうかと露店を覗き歩いていた珠紀の視界に、ふと一軒の屋台が飛び込んできた。
「あ……可愛い」
それは様々な小物の陳列する、雑貨露店だ。白い布の敷かれた露台には、普段のこの村に縁遠い色とりどりのアクセサリーや小間物が並んでいる。吸い寄せられるように雑貨露店へ近付いた珠紀は、彩り美しい細工物に目を奪われた。
和紙で仕立てられた小物入れから、焼き物の小さな人形、吊るし飾り。様々な和物の雑貨の並ぶ一角に、一際目を引く物がちょこんと置かれていた。
紫色の美女桜をあしらった、硝子細工の一本の簪だ。
力を折れれば簡単に折れてしまいそうなのに、その愛らしさは手に取らずに居られない。思わず手を伸ばした珠紀の脳裏に、ある考えが閃いた。
「おじさん、これ……」
露店の品とは似つかわしくない、厳つい店主の男へ、少女が声を掛けた時だ。
「あら、春日さん。あなたも来ていたのね」
背後から掛かった声に、珠紀はゆるりとそちらを振り返った。見れば、青い着物に袖を通した、フィーア――正確には、緩やかに流れる金髪を持つ美人教師であるフィオナの方だが――とアリアの姿がある。フィーアは濃い青、アリアは薄い青で、似たような柄が刺繍されていた。二人並ぶと、まるで親子のようだ。
「シビルは一人なのか?」
人形焼の袋を手にしたアリアが、ことりと小首を傾げて問いかける。
「うん。みんな忙しいみたいで。アリアとフィーアは、二人でお祭り見物?」
「ええ。去年は裏方の仕事をしてたでしょう? アリア様も満足に見て回れなかったでしょうから、今年は二人で回ってみようと思って」
珠紀が尋ねたことには、アリアの代わりにフィーアが答えた。ここに姿のない三人の男達のことが一瞬脳裏を掠めたけれど、去年の焼きそば屋台を思えば何となく想像がついて、少女はそっと視線を明後日の方向へと飛ばす。
それから、どうせ一人なのだし、一緒に見て回らないかと口を開きかけた所で、今度はフィーアが首を傾げた。
「あら? その着物……言蔵さんにもらったのね」
彼女が何気なく呟いた言葉に、珠紀はえ、と目を瞬かせて首を傾げた。
「どうしてフィーアが知ってるの?」
「だってその着物、言蔵さんがあなたの為に、って手ずから縫っていたものでしょう? 私がアリア様に着物を縫って差し上げたい、と和裁の指南を頼んだ時に、傍らで縫って――って……」
さらさらと語るフィーアの艶やかな笑顔が、ぽかんと口を小さく開いたまま聞き入る珠紀の様子で、訝しげなものへと変わる。まさか、と彼女が言葉を継いだ。
「もしかして……聞いて、いないの?」
恐る恐る尋ねたフィーアの言葉には、珠紀はただ無言で首を縦に振るしかなかった。
彼女の反応を見たフィーアは「しまった」と言うような顔をして、その状況を見守っていたアリアが哀れみを込めた視線をフィーアへ寄越す。
まさか美鶴が整えてくれた着物だとは思わなかった珠紀だ。丸々と目を開いて驚く最中も、嬉しい気持ちと申し訳ない気持ちがぐるぐると渦巻いていた。
――だって彼女は、何も言ってくれなかったのだ。
笑顔で送り出して、まるで苦労などしていませんよという風体で。
『私はお掃除がありますから。どうぞ珠紀様だけでも、楽しんでいらしてくださいね』
そう、告げた彼女の口ぶりからは、わざわざ着物を仕立ててまで送り出してくれた彼女の苦労など、一寸も感じ取ることができなかった。
だから珠紀は、代わりに楽しんでくるねと笑顔で返すばかりで――。
(ありがとう、なんて……一言も言えてない……!)
思い至れば、まごつくばかりの心が逸ったようにフィーアとアリアの顔を見回した。表情には「どうしよう」と言わんばかりの迷いが滲み出し、気付けなかった己の無神経さに、知らず握る拳へ力が籠もる。
……と。
「あ……、……」
掌の中で、硬質な感触がして我に返った。視線をやれば、己の手には先ほど手に取った硝子の簪がある。未だに手にしたままの簪は、握り締めていたせいですっかり掌の温もりを共有していた。
「どうやら、何か大切なものを忘れてしまったみたいね」
「フィーア……?」
「そういう顔をしているわ」
掌から顔を上げれば、フィーアとアリアが揃って珠紀を見つめている。
「伝えるべき言葉は、伝えられる内に伝えておく方がいいぞ」
伝えられなくなってからでは、すべてが手遅れなのだからな。優しく、強く、凛と響く自分よりも幾分幼い少女の言葉は、彼女が経験したことであるからか、より一層の真実味を持って珠紀の心に響いた。
「お祭りよりも、大事なものを思い出したのでしょう?」
続いてフィーアが告げた言葉に、珠紀は考えるよりも前に頷いていた。
それからすぐそばの屋台を振り返ると、厳つい店主に簪を突き付けながらよく通る声で言った。
「おじさん、これください!」
店主の男が返事をするよりも前に、着物と揃いの柄の巾着から簪分の代金を出して露台に置く。有無を言わさぬ彼女の言葉には、力強い意志が宿っていた。
まるで二人の言葉に背中を押されたように、簪を抱えた珠紀はアリアとフィーアを振り返って微笑む。ふわりと綻ばせたその表情は、簪を彩る美女桜のように愛らしく、凛と冴えていて。
「ありがとう、二人とも」
一言だけ礼を告げると、踵を返して一目散に駆け出した。かんかんかん、と下駄が石畳を打つ音が力強く響き渡る。寒風を受けながら境内を目指して走る珠紀の後れ毛が、向かい風に煽られた。
きっとまだ、そこに居る。居ないのならば探し出せばいい。今、どうしても彼女に会いたい、とひたむきな気持ちが溢れ出す。
人の間を縫って屋台の裏を通って、乱立する木々を抜けた先で、珠紀は探し人の姿を見付けた。
「……! 美鶴ちゃん!」
「……っ!? 珠紀、様? お早いお帰りですね。そんなに慌ててどうしたんですか?」
まるで突撃する勢いで、珠紀は竹箒を手に振り返る美鶴の目の前まで駆け寄る。急に止まった膝へ手をついて、全力疾走の過呼吸を繰り返した少女に、美鶴は驚きの様相を隠そうともしない。
ただ問いかけた後で、珠紀の答えを待つばかりだ。
暫く荒い息を吐き出していた珠紀は、漸く呼吸を少しだけ整えると目の前の少女を見つめてはにかむように笑った。
「あの、ね。着物のこと、フィーアから聞いた、の」
「え……?」
「私のために縫ってくれたんだよね。家事の合間に作ってくれたのかな……。大変だったでしょ? ――ありがと、ね」
この寒い中でも額にうっすらと汗の珠が浮かぶのは、ありったけの力で駆けて来たせいだろう。それでも笑みの形を崩さず伝えたかった言葉を美鶴へ告げた珠紀は、心底晴れやかな顔をしていた。
突然のことに驚いたのは、寧ろ美鶴の方だ。先ほどフィーアの話を聞いた珠紀よろしく、丸い瞳をぱちぱちと瞬かせた美鶴は、すぐに唇の端を吊り上げて控えめな笑みを浮かべた。
「いいえ。大変だなんて、これっぽっちも思いませんでした。だって、あなたへ贈るものですから」
「美鶴ちゃん?」
「大切な誰かへ贈る物を作っている間は、それだけで楽しいものです。あなたが袖を通してくれる、その時の笑顔を思えば……苦労よりも喜びの方が大きかった」
とつとつと告げられる彼女の言葉は、ふと顔を上げた珠紀の耳にどう聞こえたのだろう。まん丸と見開いた瞳で、暫し美鶴の顔を凝視していた珠紀だったが、少女は不意に表情を緩めると、くしゃりと苦笑じみた笑みを浮かべて吹き出した。
「うん、でも、嬉しかったから」
ただそれだけ。たったそれだけの言葉を伝えるために引き返して来たほどには、珠紀の心は彼女の真心に絆されていた。
私はその言葉が嬉しいですよ、と付け足す美鶴の言葉が、胸に心にじわじわと広がっていく。
幾晩もかけて縫われた着物に、自分の笑顔、これっきりを返すだけでは割に合わない気がしたけれど、彼女が嬉しいと言うのなら、珠紀にとってはそれが一番の喜びとなる。
ああ、こういう時、人はこの感情を幸せと呼ぶのだろう。
そんな思いが、ちらりと珠紀の頭の端を掠めた。
そうして互いに笑いあった後で、珠紀は思い出したように手に握ったままの簪を美鶴へ差し出す。
「あの、これ。着物のお礼にはならないだろうけど、美鶴ちゃんに買って来たんだ」
「え? これは……簪、ですか?」
「うん。……髪の短い美鶴ちゃんに簪をあげるのもどうかと思ったんだけど、これを見てたら美鶴ちゃんに似合いそうな気がして」
美鶴の手を取りながら、彼女の掌に硝子細工の簪を乗せた珠紀はそう言った後で、こそりと内緒話をするように美鶴へ小さく耳打ちをした。
「きっと来年の今頃には、もっと髪が長くなってると思うんだ。だから――」
“来年はその簪を付けて、一緒にお祭りに行ってくれる?”
悪戯を企てる子どものように、爛々と輝く瞳の珠紀が首を傾げる。問われた言葉には降参とばかりに、美鶴の肩が竦められた。
「ええ。そうですね。来年は色違いの、お揃いの着物を用意しておきます」
アリアの為に着物を仕立てたフィーアのように。珠紀の為に仕立てた着物と、それと同じ柄の布でもう一重ね着物を用意しておこう。美鶴は珠紀の提案に朗らかに頷いて、彼女からの土産を受け取ったのだった。
END
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